経営鉄則十ヶ条

知っていればよかった鉄則

勢いに任せ起業をしたため、当時は経営に欠かせない鉄則などは一切知りませんでした。知らないが故に、無作為に壁にぶつかり、多くの失敗をしました。失敗から人は学べますが、避けられるはずだった失敗を積み重ねるのは効率的とは言えません。もし最初から下記の鉄則を知っていれば、きっと数年は物事が早く展開していただろうと思います。

ここに書き綴った鉄則は「心構え」にも近いものですが、これを読む方にはこれらを心の片隅に置いていてほしいです。既に知っている事ばかりだとは思いますが、いつの日かこの鉄則が経営においての助けになることと信じています。

小手先の経営技術などではない、この身を費やして研磨された、本質的で普遍的な鉄則です。

1.人と向き合い、人が求めているものを見るべし

全ての人にはニーズはある、それは心の奥深くにも

会社を率いる者は必然的に会社の顔となります。特に会社の黎明期においては、その「顔」で受注をするということも多く、顧客と顔を向き合わせることは避けて通れない業務です。また顧客だけに限らず社員とも向き合うことも同様です。

経営の一つの側面として、“人とどこまで向き合い、その人が抱えているニーズをどういう形で満たしていくか”というものがあります。顧客、社員問わず全ての人にニーズがあり、人はそれを解決してくれる人を探しています。一方で、心の奥底にあるニーズは心を開いた相手にしか見せてはくれません。

結果として、経営者は「相手に真摯に向き合い続ける」、そして「ニーズを瞬時に洗い出す能力」というマルチタスクを求められます。

これは経営における基本の“き”であり、経営術などではありません。
経営をする人間の必要最低条件です。

「ニーズを瞬時に洗い出す能力」だけならば得意とする人はいますが、「相手に真摯に向き合い続ける」を同時に行える人は限られます。「相手に真摯に向き合い続ける」というタスクはビジネスセオリーではなく、もっと人間的なセオリーを要求してくるからです。

そして、それらは人間的なコミュニケーションの中ではじめて学び培うことができます。(ビジネスセミナーばかりでは偏ってしまいます)

2.人への優しさを持ち続けるべし

人は相手を見透かす能力がある

人と向き合う時には、優しさを忘れてはなりません。
有名な童話でも「Have a courage and be kind(勇気と優しさは忘れずに)」という言葉がありますが、これは経営にも同じことが言えます。

勇気とは経営判断を指します。
諸刃の剣(リスク)を正しく握れるかどうかです。

では優しさとは何か。
優しさとは、相手の行いを労り、生き方を敬い、弱さを許すことです。
仮にそれに値しないと感じてしまう相手に対しても、その心構えを持つべきです。なぜなら、人には相手の本性を見透かすことができる能力が備わっています。誰も優しくない人とは一緒にいたくはありません。そして、この人には優しさがないと判断すると、次に「この人は信用できない」というレッテルを貼りつけてきます。この不名誉なレッテルは、経営においては致命傷になりかねません。このレッテルを一度貼られたら、弛まぬ努力か圧倒的な経済力で引き剥がすほかありません。

優しさを持って、人と向き合う姿勢が経営者の美しき作法です。

3.常に視差を意識するべし

森羅万象は見方で変わる

物事を主観のみで見て判断する人は経営において苦労する傾向にあります。

経営では、見えたり聞いたりした物事が全てではありません。
特に今の時代、伝統的な哲学や不変と思われた概念などは簡単に覆ります。今まで見えてた正義は、明日には悪になっていることだってあります。経営者は自分の目とは別にもう一つ別な視点を持って常に物事を見据えるべきです。同時にその2つの視点の差(視差)を意識するべきです。

視差の例を挙げます。
例えば、ここにひとつのヒエラルキーを表す正三角形があるとします。上方から眺めると頂点の角の少数が上位グループとなり、下辺は下位グループを意味することとなります。これがあなたの視点です。

では下辺の右角を頂点とし眺めると、当然上位と下位のグループが入れ替わります。あなたにとっての下位グループが、別な視点からでは上位グループになるのです。

なんてことはない当たり前なことですが、この思考は物事の分析をより多次元的にしてくれて、経営判断の柔軟性を向上させてくれます。

4.人の発言の奥行きに意識すべし

聞こえたものが決して全てではない

人の発言には必ず「根源」があります。

例えば、「あなたは時々冷たい」という言葉を投げかけられたとしましょう。
その言葉だけを受け止めるとあなたはどうやら冷たい人間らしいです。しかし、ここで言葉の奥行きを見てみると意味合いが少し変わっていきます。

なぜ冷たいと感じたのか、「時々」ということは常ではないのか、通常時と大きな差異が態度に出ていたのか、そもそもなぜその言葉を投げかける決意に至ったのか、その言葉を投げかけることで何を期待しているのか・・・そこに相手の潜在的欲求があるのではなかろうか。

会話とは非常にスピーディであり、上記のことを都度考えていては会話もままならないかもしれません。しかしそうだとしても経営者たる者は、言葉の奥行きを意識することと会話の進行は同時並行で行うべきです。

“機を見るに敏”

経営者の前にはいつどこからチャンスが降ってくるかわからないのだから。

5.お膳立てを徹底すべし

結果とはお膳立てが足りてたかどうか

いきあたりばったりでは物事大成ならず。

徹底されたプランニングや大胆な行動力などあらゆる要素が噛み合って結果に結びつきます。
そしてもし、結果を得る過程に人が介在をするならば、お膳立ての有無は重要事項になります。

人の心を動かし決断をさせるには常軌を逸したアイデアやモチベーションをあげる言葉だけでは全然足りないのです。必要なのは、地道にその人のために積み上げた信頼です。

お膳立てとは、その信頼を一つ一つ積み上げる作業のことを指します。

利益を追求し効率重視になりすぎるとお膳立てとは大きく離れてしまいます。人からの信頼は想像以上に高価で、その人の事を真摯に思い行動に起こし結果を出すことで積み上げることができます。

このお膳立てができるかどうかは、経営状況は大きく変える力を持っています。

6.礼節に尽くし、傲慢は常に排他すべし

礼節こそ万国に通じる武器

どんな相手にも、礼儀と節度を持って人と向き合う心構えを常に持つべきです。礼節とは敬語を話すことではなく、礼儀を持って接し、節度ある対応をすることを指します。この礼節が欠けていると、人から信頼を得ることはとても困難になります。これは日本だけではなく、国を問わず同じことです。誰も横暴で無礼な人とは一緒に仕事をしたくありません。

経営者とは傲慢になりやすい職種です。自分の会社への想いや、積み立てた実績が傲慢にさせてしまうのです。

これは自分自身への戒めの言葉でもありますが、傲慢さには一切の価値はありません。ただただ己の価値を下げているだけです。

もし自分の中に傲慢さを感じたら、すぐにそれを砕き潰して腰を今一度低くし、礼節を持ち直してください。

7.人と会うには利より情、
人と離れるには情より利

情と利は履き違えやすい

人との出会い別れは自身の感情に委ねられがちですが、経営においては明確な判断基準を持たずしてリスクマネージメントはできません。

人と会う判断基準は「情」であるべきです。 「この人の助けになりたい」「何か新たなアイデアが生まれるかもしれない」「会うと心が洗われる」などの想いが物事を動かす原動力となるからです。最初から「利」を求めた出会いは何とも冷たいものです。

逆に、別れの判断基準は「利」です。
情に流され続けると利益を逃すだけではなく、大きな損失に発展することすらあります。
例えば、黎明期に良かれと思って安価で請け負った案件は会社が発展すると共に足枷になっていきます。必然優先度合いも下がりクオリティも低下します。それは結果としてクレームに繋がり顧客満足を得るどころか仲違いで終わることもあります。
責任を負う業務である以上、ここは「利」で判断しクライアントには嘘偽りない理由を述べて料金額の値上げの希望をお願いすべきです。それで仮に契約が途切れたとしても、リスクマネージメントは達成されています。

8.己を知り相手を知り、振る舞いを決めるべし

その場に適した自分だけのフィルターがある

所謂TPOです。「Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)」に合わせるのは定石ですが、それに「自分のフィルター(Fillter)」と「相手の想定(Assumption)」を加えて“TPOFA”で振る舞いを決めるべきです。
例えばもしあなたが「誠実で真面目な人」だと思われているのであれば、ゴルフに学生時代のジャージで参加しギャンブルの話をするのはあまり適切とは言えません。
かといって本に書かれいるような英国紳士の振る舞いを真似するというのも違います。重要なのは「あなたからはどんな印象を受けるか(フィルター)」そして「相手が自分に対して期待する像(想定)」です。
上記の例と同様にあなたが誠実で真面目な印象の場合、社交の場などで洗練された出で立ちで凛々しくも物静かに国内外の人材の育成の差について語る様はきっと好感触を得ることでしょう。その起因は、あなたの見た目から想像する像と一致しているからです。その「一致」は相手に安心感を与えます。
己を貫きどんな場でもスタイルを変えないのもセルフブランディングの一つではありますが、変えないまでも近づける努力は必要です。

9.人の弱さや孤独の恐怖を一番理解すべし

弱さや孤独がわからない人は多くを持てない

人は弱く、嘘をついてしまうし、逃げてしまうこともあります。
それこそが人たる所以であり、これから目を背けることはできません。また、人の弱さや孤独に大小はありません。皆多かれ少なかれ持ち合わせているのです。

経営者は労務や経理、プロジェクト管理、経営判断に至るまで、これらを考慮する必要があります。

経営者はその性質上、孤高になりやすく、弱さや孤独への理解が薄れがちですが、一番に理解に努め続けなくてはならない職務でもあります。それでなければ、誰もついてきてはくれません。経営者の器というものがもしあるなら、その器の大きさはここで測られます。「弱き者は去れ」というスタンスでは、最後は自分自身が孤独となってしまうのです。

10.「世の誠」で居続けるべし

その行いは誠にあるか

経営は必然的に利益ありきで行われます。
利益の上げ方は数多とありますが、それに伴う行いは常に世の誠を目指すべきです。「世の誠」が常に正しいわけでもありませんが、経営においては敏感にならざるを得ません。なぜなら、世の誠が賞賛されることが少ないですが、世の悪は必ず世間に駆逐されます(悪が栄えた試し無し)。

経営において、悪への誘いは節々で現れ、特に経営が苦しくなった時にこそ強烈に誘惑をしていきます。世の誠に反する行いをしなくてはならない時が来るかもしれませんが、極力はそれは行わない方がいいでしょう。一度汚れた土壌を綺麗にするには長い年月を要します。

人目を忍んで影に潜んで生きるより、大手を振って大道を闊歩したほうが物事は好転するものです。